2006年05月24日

ドホナーニの不運

dohnanyi_cleveland_live.jpg
私がクリストフ・フォン・ドホナーニの演奏を初めて聴いたのは、大学生のころに購入したクリーブランド・オーケストラとのブルックナーの9番である。
1988年10月の録音で、発売されてすぐ買った。しかし、実はこの演奏の真価が最近までまったくわからなかった。アンサンブルが完璧なわけではないし、音色はドホナーニらしく無彩色系である。
ところが2年ほど前、久しぶりに聴いてみたら、恐ろしく豊かなホールトーンの肌理細やかなグラデーションがまるで生き物のように揺らめいているではないか。
まったく狐につままれたような気がした。なぜこれまでそれがわからなかったのだろうか。
それがこの正月に偶然に分かった。今使っているCDプレーヤーが故障し、以前使っていたCDプレーヤーを引っ張り出して、たまたまこのブルックナーの9番のCDをかけてみたら、昔と同じくずいぶんすすけて感じるのだ。故障したCDプレーヤーが直って戻ってきて早速聴いてみると、ちゃんと魅力的な演奏に聴こえる。そう、つまり、再生装置を選ぶ演奏あるいは録音だったのだ。

それだけではない。オーケストラの変化とドホナーニの変化だ。CDでもそれはなんとなく感じられるが、クリーブランド・オーケストラ自主制作のCDのブックレットにちゃんと書かれている。
マゼール時代のクリーブランドの士気は必ずしも高くなかったが、ドホナーニを迎えてセル時代の精神を取り戻したこと。1990年ごろを境にドホナーニの解釈が厳格さよりも自由さや豊かさを重視するようになったこと。おそらくこれらの変化は同時に起こったのだろう。つまりクリーブランドが往年の技術と名声を取り戻すとともにドホナーニも次のステージに進化したのだ。
ちなみにこのブルックナーの9番は過渡期の音楽に聴こえる。厳格さと自由さが折り合い悪く並列している。

1980年代に根気良く高めてきた実力が、1990年代に入り日の目を見るかと思いきや、レコード業界の不況、プロジェクトの重複、そしてリストラにより、挫折してしまった。
ドホナーニの主要な録音にブルックナーとマーラーの交響曲があるが、いずれも全集録音は完成しなかった。
それは二つの理由があろう。ひとつは、同じポリグラム系列で同様のプロジェクトが並行して進んでいたこと。
1990年ごろの録音から拾ってみた。きちんと調べず記憶で書いているので欠けているものもあるかもしれない。

ブルックナー
Decca
ドホナーニ/CO 3-9
シャイー/DSBO+RCO 0-9
ショルティ/CSO 0-9
ブロムシュテット/SFSO+LGO 4,6,9
DG
シノーポリ/SKD 3,4,5,7,8,9
アバド/WPh 1,4,5,7,9
Philips
ハイティンク/WPh 3,4,5,8

マーラー
Decca
ドホナーニ/CO 1,4,5,6,9
シャイー/DSBO+RCO 1-10
ショルティ/CSO 1-9
DG
アバド/CSO,WPh,BPO 1-10
アバド/BPO,Luzern 1-9
Philips
小沢/BSO 1-10
ハイティンク/BPO 1-7

なんというか、「連携取れよ」という気がしてならない。

もうひとつの理由は、結局のところ売れなかったのだろう。80年代の録音で一般の聴衆の心に響かなかった彼らの録音は、90年代以降の黄金期の録音を遠ざけてしまったのだ。聴きもせずに「ドホナーニのベートーヴェンを買うのなんてオーディオオタクだけだ」とか「ウィーン・フィルもベルリン・フィルもドホナーニを嫌っている」とか、意味の分からん噂ばっかり流布して、ドホナーニの本質を聴き逃している気がしてならない。

しかしながら、ドホナーニの不人気は、今は日本だけのことのような気がする。クリーブランド以降のポスト、フィルハーモニアと北ドイツ放送響では、CD録音こそないが、充実した演奏をしているようであるし、聴衆も彼らを支えているようだ。

とはいえ、DECCA時代の録音はほとんどが廃盤のままだ。中古CDやヤフオクでこつこつ揃えているが、やはり同好の士はおられるようで、どうしても手に入らないものもある。たとえばWPhを指揮したブラームス/シェーンベルクのピアノ四重奏曲第1番管弦楽編曲版。最近FMで聴いたが、恐ろしい精度の高さと「歌」が同居する驚異的な演奏だった。

なんとかドホナーニ人気が再燃して、リング完結なんてことにならないかと夢想している。


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