2007年09月04日

ベネズエラのユース・オーケストラ

「オーケストラは人をつくる」というドキュメンタリー映画である。NHK-BS2で9月2日の深夜枠(本当は9月3日)で放送された。最初15分はリアルタイムで見て、あとは録画で見た。
今クラシック界で話題のグスタヴォ・ドゥダメルとシモン・ボリバル・ユース・オーケストラの隆盛を育んできたベネズエラの音楽教育システムを、映像的にも音楽的にもストーリー的にも美しくまとめている。

有名なデビュー録音のベートーヴェンの5番と7番は、CDは持っていないが、7番の4楽章だけをFMで聴いた。そのとき思ったのは「在りし日のロマンティックなクラシックへのオマージュ」であり、メインストリームから離れたベネズエラという地での純粋なクラシックへの憧憬がこういう形になって現れるんだろうなと思った。

このドキュメンタリーを見て、そんな単純なものではないということがよく分かる。なにせ4歳とかの子を集めてヴァイオリンが何かも分からないような状態からグループ・レッスンでがしがしヴァイオリンを弾かせるのである。しかも民族的音楽ならば5歳でいっぱしの歌が歌える音楽センスのある民族なのだから、10歳にもなればヴァイオリンだろうとトランペットだろうと、確かな技術で楽器を歌わせられる。子供たちを音楽に、音楽的にどっぷり漬け込むのである。
アバドとかシノーポリとかエドゥアルド・マータとかラトルとか著名な指揮者を招いたコンサートでは、おそらく全国から集まった子供たちが200人くらいで合奏、500人くらいで合唱するのだが、見事に音程と音楽の方向性が統一され、求心力のある音楽になっている。

音楽が商業になる前の、人の心のために存在していた時代の姿がここに現存している。ラトルもアバドもそれに感動し、活動に協力しているのだろう。

ただ、すさんだ先進国にいる我々から見ると、結局は同じ道を歩んで我々に近付いて拡散してすさんでしまうんではないかと危惧してしまう。
つまりこうだ。彼らにはオルターナティブ・クラシックとしてのピリオド・アプローチは存在しない。さらに、音楽以外の余暇の過ごし方も存在しない。世界が一つしかないからこそまだまとまっていられるのではないだろうか。彼らが「外の世界、もう一つの世界」を知ったとき、平常心でいられるだろうか。

私が指導しているジュニア・オーケストラでは、一人でチェロも剣道も野球も、とか、英会話も水泳も、とか、エネルギーの方向自体が拡散してしまっている。我々とて聴いている音楽はどんどん拡散してしまい、同じクラシックマニアでも話が通じなくなることもある。
「人生の選択肢を広く」というのも分かるし、何かに打ち込む時代じゃないのも分かるし、「打ち込む」にも能力が必要なこともわかる(オタクには能力が必要なのだ)。それでも、世界の表層でばちゃばちゃ遊んでいるだけでなく、深い世界に没入していくことで得られる喜びを知ってほしいと思うし、ベネズエラのシステムではそれが有効に働いている。

だから、彼らが心底うらやましいし、だからこそ、実はもろいこのシステムが今後も持続できることを切に祈りたい。


posted by tak at 00:06| Comment(2) | TrackBack(2) | 聴いた音楽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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