2008年03月02日

「語る」音楽

土曜日から日曜日にかけて、ミンクス室内オーケストラで「メサイア」、倉吉室内合奏団でエルガーとドヴォルザークの「弦楽セレナード」、そして我が鳥取市交響楽団でショスタコーヴィチとグリーグの曲を練習した中で、自分の音楽観がどんどんとスライドして(あるいは思い付きが核心に近付いて)いくのを感じていた。
つまり、ピリオドスタイルというのは、カウンターカルチャーではなく、もちろん一時の流行でもなく、音楽の本来の姿への回帰ではなかろうかということ。本来の姿とは「語る音楽」。逆かな。「音楽は語りの一形態」であるということ。

本来作曲家は、音の連なりにメッセージをこめて作曲していた。同時代の人には、そのイントネーションとかアーティキュレーションでどういうメッセージが込められていたか分かったし、それを表現できた。当時は演奏会場が小さかったし、楽器も、声も、「語る」奏法・唱法で対応できた。巨大な空間で大きな音で演奏しなければならないときには、たくさん奏者を集めるのが普通だった。
ところが、音楽が、人が、国が変遷するにつれて、「言葉」が通じなくなってきた。演奏会場が大きくなり、「標準語」が求められるようになってきた。演奏者は、標準語というよりか工業製品のように音を出す技術者として育てられるようになってきた。いつしか音楽は「叫ぶ」もの、あるいは「鳴らす」ものになってきた。

こうした変遷はずいぶん前から起こっていたと思っていたのだが、わずか50年ばかり前から起こったことなのではないだろうか。
というのが、この2日間のさまざまな練習の中で、エルガーやグリーグはもちろん、ショスタコーヴィチを演奏していてさえも、音符とメッセージが表裏一体であることが感じられたから。ついこの間まで、音楽はメッセージだったのだ。
このメッセージの表現方法は、例えばヘンデルとグリーグでは違うようで同じようだ。ヘンデルでは音符の連なりと言葉が表裏一体であるが、グリーグでは音のひとまとまり、ひとつらなりが情景を描写している。とは言え、ヘンデルも音で情景を描写しないわけではない。
ショスタコーヴィチは、あえて「叫ぶ」音を出させることがあるが、それはもちろん心の叫びであったり、叫ぶポーズ(!)を表現するため。

今日のN響アワーでは、ブロムシュテットが指揮したグレートを演奏していた。素晴らしい熱演だったし、テンポも速くさわやか。4楽章では、聴いたことのない提示部リピートのための「カッコ1」を聴けた。昔なら手放しに賞賛したことだろう。だが、今の私には終始居心地の悪さを感じたのが「叫ぶ」スタイルの演奏であったこと。こういうのは試聴環境によって印象が大きく左右されるので、演奏会場ではそうではなかったと思いたいが、テレビの音を聴いた限りではそう思ったということ。リートで心情吐露しまくったあのシューベルトが、シンフォニーでは叫ぶなんてことがあるだろうか。
しかしながら、私が初めて「語る」スタイルに気が付いたのもN響の演奏なのである。おそらく後世にN響の黄金時代として語り継がれるであろう「デュトワの時代」におけるデュトワとのサン=サーンスのオルガン付きであった。見事なイントネーションの統一で第2楽章第2部のあの単純なテーマが立ち上がってきたのだ。
なんで「叫ぶ」スタイルになってしまうかというとこれは、単純に練習時間が足りないためだろう。「語る」スタイルの弱点は、語るためにイントネーションを統一するのに膨大な時間が必要であることだ。「叫ぶ」のは、音符の価値を平準化して技術として音を出せばいいので、時間がなくてもできる。大きな音で、美しいサウンドで音楽を鳴らせば、ある程度は「何かを表現できた」ことになる。
だが、クラシックが敬遠されるようになったのは、メッセージを伝えずに「美」とか「サウンド」を伝えた気になってしまったせいではないだろうか。
だから、私たち音楽表現者の端くれがすべきことは、音楽における「メッセージ」の復権である。イントネーションとアーティキュレションを明確にすること、そして、音楽が表現する言葉やストーリーや情景を掘り起こすこと。それを音で、それで足りなければ言葉を補足して、表現すること。ミンクス室内オーケストラが松岡先生と取り組んでいるのはイントネーションの明確化であるし、鳥取市交響楽団がレクチャーコンサートで取り組んでいるのは音楽的メッセージの言語化である。

クラシック音楽は、クラシック音楽が結果として表現するサウンドの美しさに安住しすぎていたのだと思う。


posted by tak at 23:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽的思索 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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