2009年06月13日

初心者不可触ブルックナーその3 #9

bruckner9_carraganfinale.JPG

「初心者触れるべからず」のブルックナー異稿録音シリーズ。当然マニア必聴。

交響曲第9番といえば、「未完の交響曲」として広く知られてきたが、第4楽章の補筆完成版の完成度が年々上がってきたことによって、また、それらを積極的に取り上げる指揮者が増えてきたことによって、マーラーの交響曲第10番がそうであったように、完成した交響曲として認識されるようになってくるのではと、個人的には感じている。
しかしながら、注意しなければならないのは、第4楽章の演奏用楽譜には3つの系統があること。

1つ目は、ブルックナー自身が書いた楽譜。弟子が形見分けしたために、自筆譜が散逸しており、とりあえず存在が確認されているものだけでまとまった一つの出版譜になっている。アーノンクールはこれを使ってウィーン・フィルと録音している。
2つ目は、ウィリアム・キャラガンによる補筆完成版。1983年に発表され、まもなく、ヨアフ・タルミの指揮、オスロ・フィルの演奏の録音がCHANDOSから発売された。1枚目に1〜3楽章、2枚目に断片のみの録音と、この補筆完成版。たいていの人(私も)は、これで初めて補筆完成版の第4楽章を聴いた。これが2006年に改訂され、今回紹介しているCDで演奏されている。
3つ目は、ニコラ・サマーレとジュゼッペ・マッツカが1984年にまとめたもの。この形でまずエリアフ・インバルとフランクフルト放送交響楽団の演奏がTELDECから発売された(なぜか5番とこのフィナーレのみのカップリングだった。当時はまだ3楽章までの完成版と一緒に演奏するのは恐れ多いという雰囲気だったような気がする)。その後、ジョン・A・フィリップスとグンナー・コールスが加わって、より精度の高い補筆完成版が1992年に発表されて、クルト・アイヒホルンとリンツ・ブルックナー管弦楽団の演奏がCAMERATAから発売(これは1〜3楽章と一緒)。その後、この4人で改訂を進め、1996年改訂のものをヨハネス・ヴィルトナーとノイエ・ヴェストファーレン・フィル(Naxos)が、2005年改訂のものをマルクス・ボッシュとアーヘン交響楽団(Coviello)が録音している。そして最新の2007年改訂版を使用して、ダニエル・ハーディングがスウェーデン放送交響楽団と演奏を行った(放送録音あり)。
この記事を書くに当たっては以下のサイトを参照した。
http://www.abruckner.com/discography/symphonyno9indmino/

私が補筆完成版を初めて聴いたのは、ヨアフ・タルミのウィリアム・キャラガン版が最初で、コーダに現れる場違いなトランペットの旋律にたいそう失望したものだ。その後、サマーレ=マッツカ(&フィリップス=コールズ)版がどんどん充実してきて、鳥取でもフィリップ・ヘレヴェッヘとロイヤル・フランダース・フィルの超名演が聴けて、もうこれで決定版だなあと思っていたところだった。
ところが、ここでまたキャラガンの改訂版。この演奏のせいもあり、楽譜が失われた部分を接続するために「作曲」したものがあまり魅力的でなく、個人的には、あまり重要性を感じない。改訂版とのことだが、さらににぎにぎしくなって場違い感が増しているような気がする。

むしろ、このCDの最大の存在意義は、第2楽章トリオの異稿を録音したこと。トリオには、3つの作曲過程があって、現在普通に演奏されるのは第3稿。ここではじめて第2稿を聴くことができた。なんとも珍妙な音楽である。正直言って、これが決定稿にならなくて良かった、という感じ。でもそれが確認できてよかった。面白いのは、全く違う音楽なのに、僅かに一つ、共通の旋律が使われていること。第3稿の「芽」を感じさせる。

ところで、1〜3楽章の「コールズ版」は、ノヴァーク版とほぼ同じ。たしか誤りの訂正といったレベルの校訂だったと思う。アーノンクールもこれを使用している。

演奏については、「よくやった」と言いたい。1楽章から3楽章までは、非常にブルックナーらしい演奏である。誰の演奏か知らされずに聴いて、日本人の演奏であることを言い当てる自信は全くない。それくらい自然な演奏である。しかしながら、さすがにこの長大な4楽章版ではスタミナ切れであるのが残念。3楽章辺りでちょっとがんばりすぎたかも。


アントン・ブルックナー
交響曲第9番ニ短調
第1〜3楽章 グンナー・コールズ校訂版(2000年)、第2楽章のトリオのみ、ウィリアム・キャラガン校訂の第2稿(通常は第3稿)を使用
第4楽章 ウィリアム・キャラガン補筆完成版(1983年完成/2006年9月補完)(世界初演・初録音)

内藤 彰 指揮
東京ニューシティ管弦楽団
2006年9月28日 東京芸術劇場大ホールでのライブ録音
DELTA CLASSICS DCCA-0032


ラベル:ブルックナー
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