2009年07月28日

アンドレーエのブルックナー全集

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フォルクマール・アンドレーエという指揮者の名前を認識している人は、ブルックナー・マニアと考えて間違いなかろう。対偶を取れば「ブルックナー・マニアでなければ、フォルクマール・アンドレーエを知らない」となって、やはり正しい(なんのこっちゃ)。
フォルクマール・アンドレーエの指揮による、史上初のブルックナー全曲録音である。ウィーン交響楽団の演奏。

以下、ライナーノートの受け売り、いや引用多数。

フォルクマール・アンドレーエは、1879年にスイスに生まれた指揮者。クナッパーツブッシュ、シューリヒト、フルトヴェングラー、クレンペラー、アーベントロート、ワルター、チャールズ・アドラーなど、そうそうたる「ブルックナー指揮者」たちと同じ世代である。
しかも、その中でも最も多く(演奏も、曲も)ブルックナーを演奏したのが、アンドレーエではなかろうか。何しろ、1911年(マーラーの没年ですな)までに、ブルックナーの交響曲を1番から9番まで演奏しているそうだ。

今回の全集は、ウィーンの放送局で、1953年1月中旬から2月中旬の間に放送用にセッション録音されたもの。
ブルックナーで常に問題になる、「どの版、稿を選ぶか」について、アンドレーエは非常に興味深い選択をしている。

交響曲第1番ハ短調 1953.1.15録音
1935年出版のハース版リンツ稿を使用(ライナーノートに"1953"との記載があるが、これはノヴァーク版の出版年なので誤り)。2年前の録音では、アンドレーエは1893年に出版されたシリル・ヒナイス校訂のいわゆる「初版」のウィーン稿を使用しているらしい。1番において、リンツ稿とウィーン稿は、普通「全然違う」曲と捉えられるので、両方録音した指揮者というのは珍しい。1935年以前にはウィーン稿しかなかったわけで、これでなじんだアンドレーエが、リンツ稿に鞍替えしたのは、リンツ稿に魅力を感じたからなのだろうか。私個人としては、リンツ稿の方が好き。

交響曲第2番ハ短調 1953.1.16録音
1938年出版のハース版を、1877年稿の最初の出版どおりにカットして使用。
ハース版は1877年稿に、1872年稿を混ぜて使っており、2楽章の最後のフレーズがクラリネットではなくホルン、3楽章スケルツォのリピートが特徴である。また、1877年にカットされた部分が復活されており、これが批判の対象になっている。アンドレーエはそれを注意深くカット。しかも1箇所、初版と同じダイナミクスの追加を行っている。つまり、ほぼ初版準拠。

交響曲第3番ニ短調 1953.1.14-2.5録音
改訂版使用。改訂版は、ノヴァーク版第3稿(1890年稿)とだいたい同じなので、問題ない。この時期に入手が可能だった1950年出版のエーザー版は第2稿(1878年稿)。なじみの改訂版を使ったものと思われる。

交響曲第4番変ホ長調 1953.1.19録音
1944年出版のハース版使用。それ以前はレーヴェによる改訂版しかなかったわけだが、よりオーセンティックなハース版に乗り換えたのは妥当。改訂版に特徴的な第1楽章展開部の入りのところのバスのff、第4楽章のシンバルは引用されていない(テンシュテットはこの部分を改訂版風に変更している)。つまりハース版のまま。

交響曲第5番変ロ長調 1953.1.24録音
1935年出版のハース版使用。これも悪名高いシャルク改訂版は使用せず。

交響曲第6番イ長調 1953.1.14-2.5録音
1935年出版のハース版使用。初版とはあまり変わりがない。

交響曲第7番ホ長調 1953.1.14-2.5録音
1888年出版の初版(グートマン版)使用。ハース版と違って2楽章でシンバルとトライアングルが鳴る。

交響曲第8番ハ短調 1953.1.14-2.5録音
1892年出版のシャルク改訂版使用。後年の第2稿ノヴァーク版と実質的に同じ。当時入手できたハース版は、第1稿を混ぜたりしていて評判が悪く、ウィーンでは好まれなかったそうだ。

交響曲第9番ニ短調 1953.1.14-2.5録音
1935年出版のオーレル版使用。悪名高きレーヴェ改訂版は使用せず。

テ・デウム
批判校訂版はまだ出ていなかったので、初版使用。

以上のとおり、版の選択は非常に賢明である。その時点で入手できる最もオーセンティックな楽譜を使用しつつも、ハース版の一部に見られる恣意的な校訂譜を排除している。
結果として、ずっと後の世代にノヴァーク版で完成されたブルックナー全集と、音はほぼ同じなのだ。

この全集によって、指揮者たちはどう「版」を選んできたのか、ということが腑に落ちた気がする。
つまり、最初のブルックナー指揮者世代は、基本的に初版を使い、改訂版については人によっては改訂版をそのまま(クナッパーツブッシュ)、人によってはオーセンティックなハース版に乗り換える。
次の世代は、最初からハース版を学んだので、ハース版を使用する(ヴァント、ドホナーニ)。
その次の世代は、ノヴァーク版が入手できたので、ノヴァーク版を使用する。ショルティやジュリーニはヴァントと同じ世代だが、ブルックナーを勉強し始めたのはずっとあとだったのだろう。
オイゲン・ヨッフムやロヴロ・フォン・マタチッチは、実は最初の「改訂版」世代で、最終的には結果的にそれに近いノヴァーク版に乗り換えたのだろう。この2人は、晩年になって改訂版の修正をノヴァーク版に取り入れている。ヨッフムは、7番の1楽章の第1主題にあるホルンのブリッジ、マタチッチは、9番3楽章終結部のピツィカート→アルコの変更。

さて、大事な、演奏についてであるが、基本的には心もとないところの多い演奏である(笑)。3番など、全く同時期のクナッパーツブッシュとウィーン・フィルの演奏と比べたら、比べるのがかわいそうなくらい。
それでも、7番はベイヌムを、8番はセル(コンセルトヘボウの方)を、9番はマタチッチを思い出す、昔かたぎの温かいブルックナーであり、この時期にすでにブルックナーとはこう演奏するもの、みたいなコンセンサスが生まれていたことがよく分かる。
また、当時は相当演奏が少なかったであろう6番は、心が熱くなる名演である。

結論として、決して気軽に入手してはいけないブルックナー全集であり、分かる人が聴けば多くの収穫を得られる貴重な「世界初」の全集であった。


Anton Bruckner
9 Symphonien & Te Deum

Volkmal Andreae
Wiener Symphoniker

Music & Arts CD-1227(9CDs)
ラベル:ブルックナー
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