
2006年6月18日のヴァルトビューネ・コンサートは、ネーメ・ヤルヴィの初登場であった。
実はそのことを直前まで知らず、カルテットのレッスンを受けたベルリン・フィルのファースト・ヴァイオリンのローレンティウス・ディンカさんに聴いたのだ。打上げのときに私がなぜかヤルヴィの話を持ち出すと、ディンカさんが「ああ、彼はもうすぐベルリン・フィルを振りに来るよ。シェーラザードとかペールギュントとかやるんだ。私は乗らないけど」みたいなことを話されたのだった。
http://takmusik.seesaa.net/article/19325074.htmlhttp://takmusik.seesaa.net/article/19325384.html調べてみると確かにそう。ヴァルトビューネはNHKのBS-2で放送するのが通例だが、今回は見逃してしまったようで、受信できないBSハイビジョンでの放送しか確認できなかった。
そうこうしていると、HMVのサイトでDVDが発売されているのを発見。早速注文して、ようやく今日届いたのだった。
ちなみにこのヴァルトビューネの直後にヤルヴィは日本を訪れて、京都市響を振ったのだった。
http://takmusik.seesaa.net/article/20340630.htmlhttp://takmusik.seesaa.net/article/20427285.htmlさて、このコンサートであるが、ヤルヴィの指揮の印象は、当然と言うべきかどうか、京都市響に対する指示のあり方と全く同じで、音と完全一致の指揮、完璧なキュー、迷いのない読譜であった。
つまり、オケが上手かろうがどうだろうがやることは変わらない。そして結果も同じようにすばらしい。
まず語るべきは、オーケストラの指揮者への信頼であろう。迷いのない棒がオケに安心感を与え、「音楽する」ことに全神経を集中させることに成功している。どんなに錯綜する部分でも棒が迷わないからオケも崩れない。オケのメンバーもそこかしこでニコニコしながら弾いている。
そして、ヤルヴィの手、体、そして顔の表情が作りだす「物語」が、オケにだんだんと浸透していって、まるで「同じ夢を見ている」ような状態を作り出している。つまり、同じヴィジョンを持てているから同じ表情が出せる。とくに、グリーグにおけるオケの表情の変転の妙は見事であった。
このたびの公演はソリストたちもずば抜けている。
二人の歌手はそれぞれ、声の天分に恵まれているだけでなく、ヴィジョンを伝える力を持っている。歌う様を見ていると、ふと何か頭の中に景色がよぎるのだ。
そしてジャニーヌ・ヤンセン。歩いて出てくるときはその辺のモデル系ねーちゃんみたいだけど、ヴァイオリンを弾き始めたら、狐か蛇に取り憑かれたかのようにトランスしている。テクニックがしっかりしている中でなんとも濃い表情付けをする。だからインテンポなのに飽きない。重要なのが、オケとアンサンブルする意識を強く持っていること。オケとぴったりと合わせたい部分ではオケに向き合って、ヤルヴィと二人指揮者体制みたいになって可笑しい。
だから、トランス系なのに克明かつ精緻というありえない組み合わせが成り立っている。面白い!
そして再びヤルヴィについて。
プログラムの最後のシェーラザードでは、指揮者もオケも興奮しないのに客席だけ興奮しているというような仙人のような演奏を展開する。
アンコールには誰も聴いたことのないようなフチークのマーチとニールセンの怪しい曲で客席を大いに沸かす。知らない曲を、純粋に音楽の力だけで聴かせるのだ。
このDVDのライナーノートに書かれたヤルヴィの現在のポストは、以下の通り。
・ハーグ・レジデンティ・オーケストラの首席指揮者
・ニュージャージー交響楽団の音楽監督
・デトロイト交響楽団の名誉指揮者
・エーテボリ交響楽団の名誉指揮者
・日本フィルの首席客演指揮者
・ロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団の桂冠指揮者
ニュージャージーの市民がうらやましい。でも、もっともっとふさわしい活躍の場があるような気がするのだが。
Waldbühne
An Oriental Night
Neeme Järvi
Berliner Philharmoniker
Wolfgang Amadeus Mozart
Die Entführung aus dem Serail, Overture
Carl Nielsen
Oriental Festive March from Aladdin, op.34
Nikolai Rimsky-Korsakov
Sheherazade op.35
I, II
Edvard Grieg
Anitra's Dance from Peer Gynt Suite No.1, op.46
Solveig's Song from Peer Gynt Suite No.2, op.55
Marita Solberg, soprano
Arabian Dance from Peer Gynt Suite No.2, op.55
Ingebjorg Kosmo, mezzo-soprano
Jules Massenet
Meditation from Thaïs
Janine Jansen, violin
Camille Saint-Saëns
Introduction et Rond capriccioso op.28
Nikolai Rimsky-Korsakov
Sheherazade op.35
III, IV
Jurius Fučik
Florentiner Marsch op.214
Carl Nielsen
Negro Dance from Aladdin, op.34
Paul Lincke
Berliner Luft from Frau Luna
2006.6.18, Waldbühne, Berlin
EuroArts
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2554909