名暗号解読士、かつ、暗号士ヴァレリー・ゲルギエフの、ショスタコーヴィチの交響曲第1番と15番。
ああ、交響曲第1番ってこんなに素晴らしい曲だったのか。
第1楽章など、無理めな転調や無調っぽい動きが、音程が的確なおかげで、非常に音楽的に聴こえる。あまり旋律らしくないテーマも、絶妙な抑揚で、見事に旋律に聴こえる。
そして、類まれなアンサンブル。こういう曲を、縦の線を正確に合わせるのは、そんなに難しくないと思うが、この演奏のように、すべてのタイミングを絶妙な「間」を伴って演奏しようと思えば、ゲルギエフのコンセプトが奏者一人ひとりの体に入っていないとできるものではない。結果として、音楽の要素が不思議な引力で引かれ合ってすべてひとつながりになっている。
そして、交響曲第15番も名演。なのだが、この日のこの感想は勘違いだったのだろうか。
http://takmusik.seesaa.net/article/66995890.html
よく言われるように、また、ライナーノートにも書かれているように、第1楽章はショスタコーヴィチの子供時代の回想であり、ウィリアム・テルは、その楽しげな楽想以上の意味は聴こえない。
なんというか、暗号を再度暗号化したようだ。すなわち、2007年11月の時点では、暗号を解読した状態で露出してしまい、1年後にはそれを元通りしまいこんだのか。
あの日の恐ろしく、背筋の凍る演奏を知っているだけに、それを知らんぷりを決め込んだこの演奏も恐ろしい。
そして、それは、まさにクルト・ザンデルリンクの演奏を連想させる。
http://takmusik.seesaa.net/article/66160679.html
特に以下を参照。
http://blog.livedoor.jp/takuya1975/archives/50676388.html
彼こそ、この15番の秘密をいち早く見抜いた人なのだ。なのに、ザンデルリンクの演奏も、表面的には恐怖を感じない。
ともかく、ゲルギエフとマリインスキー管弦楽団による、1番と15番という名演に恵まれない2曲の、数少ない名演である。
ヴァレリー・ゲルギエフ
マリインスキー劇場管弦楽団
ドミトリ・ショスタコーヴィチ
交響曲第1番
交響曲第15番
2008.7.18,20,25 マリインスキー・コンサートホール、サンクト・ペテルブルク
MARIINSKY MAR0502